上場準備企業は中小企業と上場企業の中間に位置することから、どのレベルの会計基準によるべきか迷うところである。すなわち、上場会社や大会社が従っている通常の会計基準か、「中小企業の会計に関する指針」か、「中小企業の会計に関する基本要領」のいずれによるべきであろうか。
この点、2番目の「中小企業の会計に関する指針」の知名度はだいぶ上がってきたものの、「中小企業の会計に関する基本要領」は初耳の読者が大半であろう。それもそのはず、「中小企業の会計に関する基本要領」は11月8日に中小企業庁及び金融庁を共同事務局とする「中小企業の会計に関する検討会」が公開草案を公表したばかり。これは、昨年8月に公表された「非上場会社の会計基準に関する懇談会」(企業会計基準委員会等の民間団体が設置)の報告書及び昨年9月に公表された「中小企業の会計に関する研究会」(中小企業庁が設置)中間報告書の両報告書を受け、中小企業関係者等が主体となって中小企業の実態に即した新たな中小企業の会計処理のあり方を示すことを目的として取りまとめたもの。パブコメ募集は12月7日まで。
本要領案は、以下を除く株式会社のうち、「中小企業の会計に関する指針」によることを求めることが必ずしも適当ではない中小企業の利用を想定したものとなっている。
・ 金融商品取引法の規制の適用対象会社
・ 会社法上の会計監査人設置会社
すなわち、金融商品取引法の規制の適用対象会社や会社法上の会計監査人設置会社が準拠すべき企業会計基準、「中小企業の会計に関する指針」、本要領という3段階の構造を指向するものとなっている。なお、上場準備会社であれば最上層の企業会計基準に準拠せざるを得ない。「中小企業の会計に関する指針」や本要領はあくまで参考程度と考えておくべき。
さて、本要領案は、総論、各論、様式集で構成されている。まず、総論では本要領案の基本的な考え方が記載されており、各論において、主要な勘定科目に関する説明が中小企業経営者の理解に資するよう分かりやすい表現で簡潔に取りまとめられている。また、様式集において、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表製造原価明細書、販売費及び一般管理費の明細について、様式例が示されている。様式例は、多くの中小企業の実務において実際に使用されているものに準拠しており、実際の実務を変更させるような内容ではない。もっとも、株主資本等変動計算書に関して、純資産の項目を横に並べる形式に加えて、縦に並べる様式も紹介されているが、①わが国金商法下の財務報告において純資産の項目を縦に並べる様式が導入された背景は、EDINETのXBRL上の制約という技術的な要請が主である、②中小企業の場合、純資産項目が多岐にわたることは少ないことから横に並べる形式でも支障はない(一段で収まる)、といった理由から、視認性に乏しい縦に並べる形式を中小企業があえて採用する理由は乏しいと思われる。
なお、安定的に継続利用可能なものとするという観点から、本要領案は国際会計基準の影響を受けない旨冒頭にてうたわれている。また、リース取引について賃貸借取引に係る方法を認めたり、有価証券は売買目的のものを除き、原則として取得原価で計上する等簡便な会計処理が許容されたものとなっている。また、損益計算書の様式において特別損益に前期損益修正益が掲げられていることから、過年度遡及会計基準についても適用を前提としないつくりとなっている。
(情報提供:日本IPO実務検定協会)
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