分配可能な利益がないのであれば配当をしようがないものの、分配可能な利益がある場合、配当をすべきか否か、配当をするとしてどの程度すべきか、という判断に迷うことがある。配当に関する社内の方針があれば、それに従えばよいのだろうが、そもそも社内の方針自体の妥当性も検討する必要がある。そのような判断を迫られたときに役立つのが、機関投資家の目線だ。
機関投資家の目線といっても、機関投資家が個別の案件でどのように判断するのかを容易に知るすべはない。もっとも、一般論としての判断基準であれば議決権行使助言会社の基準が参考になる。
機関投資家向け議決権行使助言サービス最大手の Institutional Shareholde Services Inc.(以下、ISS)がとりまとめている日本向け議決権行使助言基準によると、配当は次のように取り扱われている。
下記のいずれかに該当する場合を除き、原則として賛成を推奨する。
・ 十分な説明がなく、配当性向が継続的に低い場合
・ 配当性向があまりに高く、財務の健全性に悪影響を与えうる場合
その解説においては、「配当性向が15%から100%の場合、通常は賛成を推奨する。配当性向がその範囲にない場合、個別判断を行う。特に配当性向が100%を超える場合は財務の健全性への影響を考慮し、議案の内容を精査する。」といった具体的な数字基準を示している。ちなみに、配当性向とは配当額を当期純利益で除した値(単位は%)。
また、企業年金連合会の株主議決権行使基準では、配当について次のような基準を設けている。
(2)剰余金の処分等 a 株主に対しては、将来の事業計画、財務の安定性、従業員処遇、役員報酬などとバランスのとれた利益配分(配当および自社株買いを含む)がなされるべきである。
低配当のキャッシュリッチな企業は、それだけでM&Aの対象に選ばれかねない。一方で、配当に回すよりも企業の成長に資金を使いたいという考え方もある。自社の配当の方針を固める際には、是非とも機関投資家の目線を参考にしたいものだ。
ISS「2013 年日本向け議決権行使助言基準(概要)」はこちら
企業年金連合会「株主議決権行使基準」はこちら
情報提供:日本IPO実務検定協会
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