上場準備において、監査法人の果たす役割は大きい。成果物は監査報告書一枚だけに見えるが、実際は上場準備という混沌とした世界を会計という側面から道案内してくれる重要なプレイヤーだ。
そんな監査法人の監査が厳しくなるかもしれない制度改正が行われようとしている。それは、金融商品取引法に基づいて開示を行っている企業(非上場企業のうち資本金5億円未満又は売上高10億円未満かつ負債総額200億円未満の企業は除く)に対する監査に対して適用される「監査における不正リスク対応基準」(以下、不正リスク対応基準)を新設しようというもの。昨年12月にパブコメが募集され、現在、企業会計審議会監査部会にて平成26年3月期からの適用を目指して検討中だ。パブコメ結果を受け、四半期レビューについては不正リスク対応基準の対象外となる方向だ。
さて、不正リスク対応基準では、「不正」とは「不当又は違法な利益を得る等のために、他者を欺く行為を伴う、経営者、従業員等又は第三者による意図的な行為」と規定されている。よって、「不正」には誤謬を含まれないことになる。一方、「不正リスク」とは「財務諸表監査における不正による重要な重要な虚偽表示のリスク」と規定されている。不正リスク対応基準の理解に際して、両者は区別して考える必要がある。
その上で、不正リスク対応基準では、財務諸表全体に不正リスクが識別された場合に、「企業が想定しない要素」を監査計画に組み込まなければならないとしている。そして、「企業が想定しない要素」の一つの例として、抜き打ち監査手続があげられている。
強制調査権をもたない監査法人の監査現場においては、クライアントの協力のもと監査が進められており、抜き打ち監査が本当に機能するのかどうか実務家からも疑問の声がある。パブコメでも反対の意見が多数寄せられた模様だ。
これに対して、不正リスク対応基準では、「財務諸表監査の目的を変えるものではなく、不正摘発自体を意図するものでもない」や「本基準は、過重な監査手続を求めるものではない」といった旨の記述が含まれているものの、実務家からは「粉飾を見抜けなかったときに、抜き打ち監査をやっていなかったから見抜けなかった」と判断されるリスクに備えなければならないといった声が上がっている。それにより、監査が厳しくなることは十分に予想される事態といえよう。上場準備会社としては、金商法に基づいて開示する際の監査から適用されることになる(もっとも非上場企業であれば、資本金5億円未満又は売上高10億円未満かつ負債総額200億円未満の企業は除かれる)。今後の会計士協会の実務指針等の改訂動向が気になるところだ。