上場準備企業において、有価証券届出書はⅠの部、目論見書といった各種書類のベースとなるものであるだけに、その作成に際しては法令に準拠した適切な開示となるよう留意する必要がある。この有価証券届出書は、上場会社等で提出が必要となる有価証券報告書のトレンドを反映させる必要がある。有価証券報告書で留意すべきトレンドを集約したのが、「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意事項(平成25年3月期版)」だ。金融庁がほぼ毎年公表しており、平成25年3月期版は3月29日に公表されたばかり。記載されている留意事項は、そのすべてが有価証券届出書においても必要となる事項であるだけに、上場準備企業としては是非参考にしたい。
平成25年3月期から新たに適用となる開示制度・会計基準等は特段ないものの、「未適用の会計基準等に関する注記」については注意が必要となる、すなわち、平成24年5月17日に公表された「退職給付に関する会計基準」は、平成25年4月1日以後開始する事業年度の年度末の財務諸表から適用(期首からの早期適用も可能)されることとなっていることから、翌事業年度から「退職給付に関する会計基準」を適用する会社においては、既に公表されている会計基準等のうち適用していないものがある場合に求められる「未適用の会計基準等に関する注記」を、重要性の乏しいものを除いて記載する必要があるからだ(財務諸表等規則第8条の3の3、連結財務諸表規則第14条の4)。
また、平成24年3月30日に「役員の状況」及び「コーポレート・ガバナンスの状況」における社外取締役及び社外監査役に関する記載内容が、次の通りに改正されている。
・「役員の状況」において、役員が社外取締役又は社外監査役に該当する場合には、その旨を欄外に注記する。
・「コーポレート・ガバナンスの状況」において、社外取締役又は社外監査役の提出会社からの独立性に関する基準又は方針の内容(ない場合はその旨)を記載する(従来の開示ルールの明確化)。
・「コーポレート・ガバナンスの状況」において、社外取締役及び社外監査役と提出会社との利害関係について記載されている点につき、社外取締役又は社外監査役が他の会社等の役員若しくは使用人である、又はあった場合における当該他の会社等と提出会社との利害関係が含まれること(その記載については、金融商品取引所が開示を求める社外役員の独立性に関する事項を参考にすることができる)に留意する。
これらの改正点は、すでに平成24年3月31日以後に終了する事業年度を最近事業年度とする有価証券届出書及び当該事業年度に係る有価証券報告書から適用済みの事項ではある。しかし、今期の有価証券報告書レビューの法令関係審査の対象となっていることから、あらためて点検したいところだ。
さらに、最近の課徴金事案及び自主訂正事案において、以下の点について不適切な会計処理が認められているとして、注意を促している。
・売上及び売上原価に関連する会計処理
・貸倒引当金等の引当金の計上
・連結子会社等における会計処理
その他、平成24年3月期以降の有価証券報告書レビューを踏まえて、固定資産の減損損失に関する注記について、減損を認識した資産(のれんを含む)についての内容や回収可能価額の算定方法等についての記載が不明瞭な事例が認められているとして、減損損失の内容を明瞭に注記するよう留意を呼びかけている。さらに、関連当事者注記に関して、関連当事者の範囲について正確に把握していない事例や、必要な事項の記載が漏れている事例が認められているとして、関連当事者の範囲を網羅的に把握して、必要な事項を正確に記載する必要がある点にも留意を促している。
こういった点を財務報告作成プロセスにおけるチェックポイントに加えて、自発的にミスを発見できる体制を整備していきたいものだ。
情報提供:日本IPO実務検定協会
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