制定手続きに不備のある就業規則は無効か
2013年5月2日更新
先般、ある私立大学が「就業規則改正にあたり、労働者の過半数代表者から意見を聞いたように偽装した」などとして、労働組合から東京地検に刑事告発された。告発内容の当否ならびに検察や裁判所がどう判断するかはさておき、仮に労働基準法に定める制定手続きを欠いていた場合は、その就業規則は無効になるのだろうか。
これに関しては、意見聴取義務および届出義務について労働基準法違反があったとしても、労働契約の内容を決定する就業規則の効力に影響はないと判断している裁判例(大阪高判S41.1.20、東京地判H18.1.25など)が大多数だ。と言うのも、労働基準法が定める使用者の義務は、国に対するものであって、労使間の契約関係を決定するものではないからだ。
逆に、いくら労働基準法が定める意見聴取や届け出の義務を果たしていたとしても、その就業規則が従業員に周知されていなかったら無効とされる(最二小判H15.10.10など)。考えてみれば、就業規則は労働条件や職場規律を明文化したものなのだから、従業員に周知しなければ全く意味が無いことは、労働基準法第106条や労働契約法第7条の規定を俟つまでもなく、当然と言える。就業規則の効力という面からは、「行政官庁への届け出」よりも「従業員への周知」に重きを置いて考えるべきなのだ。
ちなみに、就業規則等の周知方法については、労働基準法施行規則第52条の2で、次の3通りが示されている。
(1) 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付ける。
(2) 書面を交付する。
(3) 磁気ディスク等に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置する。
(社会保険労務士 神田 一樹)
情報提供:上場.com