新たに雇い入れた従業員の能力や人間性を判断するために「試用期間」を設けている会社は多いが、当の新入社員にその旨を伝えていないケースが、まま見受けられる。
試用期間は、労働契約の内容を構成する重要な項目の一つなのだから、契約の当事者たる新入社員本人は知っておかなければならないはずだ。しかし、厚生労働省が例示している「モデル労働条件通知書」には記載が無いためか、自社で用いている「労働条件通知書」にも試用期間について書かれていないことが少なくない。
それでも、おそらく「就業規則」には試用期間について明記されているだろうから、新入社員に就業規則の内容を周知してあれば、試用期間についても通知したことにはなる。しかし、就業規則をコピーして渡したならともかく、新入社員の閲覧できない状態に置かれていたなら、それは周知していないのと同じだ。
もし新入社員本人が試用期間に在ることを知らされていなかったら、それは労働契約の内容には含まれないことになる。つまり、仮に試用期間中に能力的あるいは人間的に問題があることが判明したとしても、本採用された正社員を解雇するのと同等の理由が無い限り、解雇できないのだ。また、採用後14日以内に解雇することになった場合でも、試用期間中でなければ、解雇予告もしくは解雇予告手当の支払いが必要となる。加えて、試用期間中と本採用後とで賃金その他の条件に差異がある場合は、それらの合理性すら否定されかねない。
試用期間を設けている会社は、それが無意味化してしまうリスクもあることを認識したうえで、新入社員自身にどのように通知しているかを再点検し、できれば「労働条件通知書」に記載しておくようにしたい。なお、口頭での通知は、往々にして「言ったはずだ」・「聞いていない」のトラブルになりやすいので、やはり書面で明示するべきだろう。
(社会保険労務士 神田 一樹)
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