残業代を計算する事務作業を軽減するためか、「残業代込みで月額○万円」というような賃金の支払い方をしている会社がある。こういう方式は合法なのだろうか。
まず、前提として、このような残業代の支払い方をしている会社であっても、従業員個々の労働時間は適正に把握しなければならないことを確認しておきたい。一部に誤解されている向きもあるが、「フレックス制」を採用している会社でも労働時間の把握は必要だ。(「みなし労働時間制」の扱いに関しては、話が複雑になるのでここでは割愛することとする。)
そして、その把握した従業員個々の労働時間に対しては、当然、賃金を支払わなければならない。それについて、「時間外勤務○時間分までの時間外手当として一定額を支払う」とする労働契約を締結しておくというのが、「残業代込み賃金」の法律的な構成だ。したがって、予め、『就業規則』または『労働条件通知書』等により、「所定労働時間分の賃金」と「時間外手当相当額」とが明確に区分されていなければ、合法と言えない。
また、実際の時間外勤務時間が見込んでいた時間数を上回ったら、その超過分の時間外手当は別途支払わなければならないことになるので、要注意だ。加えて言えば、深夜労働が行われた場合には、その分の深夜手当も発生する。
一方で、逆に、実際の時間外勤務時間が見込んでいた時間数を下回った場合に、その余剰分を翌月以降に繰り越す制度を認めた判決(東京地裁H21.3.27)も出されている。しかし、この制度の当否が訴訟の直接の目的であったわけではなく、また、その他の事情も総合的に鑑みて出された判決の一部分なので、そこだけを切り取って鵜呑みにするのは危険だろう。
いずれにしても、「残業代込み賃金」は、それ自体が即違法というわけではないのだが、一つ間違えると違法となりうる可能性が高いので、法知識を踏まえた対応が求められる。
(社会保険労務士 神田 一樹)
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