上場準備企業では、関連当事者注記の開示に備えて、監査法人の指導により、役員ごとに関連当事者のチェックリストをつけている会社が少なくない。もちろんそれ自体は必要なことである。しかし、関連当事者チェックだけで終わらせてしまっては問題がある。子会社などではない関連当事者(関連当事者には子会社が含まれる)の一つと認識していた会社が、よくよく検討してみると実は子会社に該当していたという可能性があるからだ。そのような笑えない話が実際におきてしまったのは東証1部に上場するコーナン商事株式会社。同社では、取締役(以下、X氏)のリベート疑惑が報道され、第三者委員会が設置された。その調査結果についてはこちらを参照して欲しい。
調査報告書は全体として裏リベート摘発のための実例として、内部監査担当者は必見といえるのだが、ここで、注目したいのは調査報告書の45ページの「第7 会計的影響の検討」である。ここでは、X氏とその親族が議決権を有するH社が「役員及びその近親者が議決権の過半数を支配している会社等」として、関連当事者情報に記載されているものの、報告書ではさらに踏み込んで、コーナン商事社の子会社として認定している点である。
連結財務諸表に関して「親会社」とは、他の会社等の財務及び営業又は事業の方針を決定する機関を支配している会社等をいい、「子会社」とは、当該他の会社等をいう。
ここで、他の会社等の意思決定機関を支配している会社等とは、次のa~cに掲げる会社等をいう(支配力基準。ただし、財務上又は営業上若しくは事業上の関係からみて他の会社等の意思決定機関を支配していないことが明らかであると認められる会社等は除く)。
a 他の会社等の議決権の過半数を自己の計算において所有している会社等
b 他の会社等の議決権の100分の40以上、100分の50以下を自己の計算において所有している会社等であって、かつ、次のア~オに掲げるいずれかの要件に該当する会社等
ア 自己の計算において所有している議決権と自己と出資・人事・資金・技術・取引等において緊密な関係があることにより自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者及び自己の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者が所有している議決権とを合わせて、他の会社等の議決権の過半数を占めていること。
イ 役員若しくは使用人である者、又はこれらであった者で自己が他の会社等の財務及び営業又は事業の方針の決定に関して影響を与えることができる者が、当該他の会社等の取締役会その他これに準ずる機関の構成員の過半数を占めていること。
ウ 他の会社等の重要な財務及び営業又は事業の方針の決定を支配する契約等が存在すること。
エ 他の会社等の資金調達額の総額の過半について融資を行っていること(自己と出資・人事・資金・技術・取引等において緊密な関係のある者が行う融資の額を合わせて資金調達額の総額の過半となる場合を含む)。
オ その他、他の会社等の意思決定機関を支配していることが推測される事実が存在すること。
c 自己の計算において所有している議決権と自己と出資・人事・資金・技術・取引等において緊密な関係があることにより自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者及び自己の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者が所有している議決権とを合わせた場合(自己の計算において議決権を所有していない場合を含む)に他の会社等の議決権の過半数を占めている会社等であって、かつ、上記bのイ~オに掲げるいずれかの要件に該当する会社等
すなわち、X社はコーナン商事社と資本関係がない(すなわち上記のcで判定)ものの、
・X氏はコーナン商事社の緊密な者(同社の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者)
・X氏と生計をともにするY氏(取締役)もコーナン商事社の緊密な者
であることから、
・H社の役員構成がX氏とX氏の親族で固められており、イの要件を満たす
・H社はY氏とX氏からの借入金が負債の過半を占めており、エの要件も満たす
・H社の主たる資産がコーナン商事社に賃貸されており、主たる収入がコーナン商事社からの賃借料であることなどを鑑みると、「他の会社等の意思決定機関を支配していないことが明らかであると認められる会社」とはいえない。
ことから、H社はコーナン商事社の子会社に該当することになるというロジックだ。
もちろん子会社であっても、連結子会社とするかどうかは重要性の要素もあることから、一概に言えるものではない。しかし、もし連結子会社であるとなれば、連結財務諸表の過年度修正が必要になってしまう。
これを他山の石として、他の企業でも、取締役の個人会社の決算書や登記簿の入手を行い、子会社に該当するものではないことを今一度確認すべきと言えよう。
(情報提供:日本IPO実務検定協会)
情報提供:上場.com