従業員に時間外労働をさせた場合は、割増賃金を支払わなければならない。この割増賃金の単価につき、月給制の場合、「月額基本給÷月あたり所定労働時間数」をもって残業単価としている会社をまれに見掛けるが、それは完全に間違いだ。なぜなら割増賃金の単価は「月の所定賃金額÷月あたり所定労働時間数」で算出しなければならず、「月の所定賃金額」には諸手当も含めて計算するのが原則だからだ。
ところで、労働基準法と同法施行規則はこの計算基礎に含めない手当を列挙しているが、そのうち特に「住宅手当」については、“住宅に要する費用の一定割合(または住宅に要する費用によって段階的に区分した額)を補助するもの”に限っているので、要注意だ。つまり、「住宅手当」でも、次のようなものは、残業単価の計算基礎に含めなければならない。
(1) 従業員一律に定額で支給するもの(「第2基本給」的な意味合い)
(2) 住宅の形態ごとに一律の定額で支給するもの
例:「賃貸住宅に住んでいる者には3万円、持ち家に住んでいる者には2万円」
(3) 住宅以外の要素に応じて支給するもの
例:「世帯主である者には2万円、世帯主でない者には無支給」
こんな例もある。寮完備をメリットと謳っていた会社が、その寮を廃止するのに伴い、入寮していた従業員に対し一定額の「住宅手当」を一定期間支給する制度を設けた。このこと自体は支払う会社にしても受け取る従業員にしても双方納得できる合理的なものであったが、その「住宅手当」を残業単価の計算基礎に含めるべきことを失念しており、労働基準監督署の調査で指摘され、2年間さかのぼって残業代を計算し直すこととなった。
月ごとに見ればさほど大きな額ではないとしても、2年分まとめて支払うとなると、会社の存亡に関わるほどの大問題にもなりかねない。正しい理解と適切な運用が求められよう。
(社会保険労務士 神田 一樹)
情報提供:上場.com