上場会社の場合、限られた時間の中で金商法や会社法の要求を満たす決算・開示書類を作成するだけでなく、決算短信の作成も求められることになる。連結財務諸表作成会社の場合、単体だけでなく、連結グループとしての決算も終える必要があり、負担が大きい。
そのような中、連結決算の決算作業を大幅に簡素化する制度案が示されることになった。それは、金融庁が1月14日に公表した、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」である。
これは、企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議が平成25年6月20日に公表した「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」で、単体開示の簡素化が提案されていたことが発端である。これによると、
(1)連結財務諸表の開示が中心であることが定着した現在においては、単体開示の簡素化について検討することが適当である。
(2)金商法において会社法の要求内容と別の内容の単体財務諸表の作成を求めることは、作成者である企業にとって二重の負担になる。
といった点を理由として提案されたもの。
簡素化に際しては、
・本表(貸借対照表、損益計算書及び株主資本等変動計算書)に関しては、大多数の企業が経団連モデルを使用している状況を踏まえれば、会社法の計算書類と金商法の財務諸表とでは開示水準が大きく異ならないため、会社法の要求水準に統一することを基本とする。
・注記、附属明細表、主な資産及び負債の内容に関しては、会社法の計算書類と金商法の財務諸表とで開示水準が大きく異ならない項目については会社法の要求水準に統一することを基本とする。また、金商法の連結財務諸表において十分な情報が開示されている場合には、金商法の単体ベースの開示を免除することを基本とする。
・単体開示のみの会社については、連結財務諸表の作成負担がなく、単体の簡素化に伴い代替する連結財務諸表の情報もないため、仮にこういった会社に対してまで簡素化を行うとした場合には、連結財務諸表を作成している会社との間で情報量の格差が生じてしまうおそれがある。したがって、単体開示のみの会社については基本的に見直しを行うべきではない。
等の方針が示されていた。
これを踏まえ、単体開示の簡素化を図るためにパブコメに付されたのが今回の財規等の改正案である。
連結財務諸表を作成している会社を主たる対象として、次のような改正案が示されている。
・本表(貸借対照表、損益計算書及び株主資本等変動計算書)について、会社法の要求水準に合わせるため、新たな様式を規定している。もっとも、二期比較は維持したままとなっており、完全に会社法の本表と同様というわけではない。
・注記、附属明細表、主な資産及び負債の内容について、
a 連結財務諸表において十分な情報が開示されている項目について財務諸表における開示を免除する(例:リース取引に関する注記は不要。連結財務諸表においてセグメント情報を注記している場合にあっては、単体PLにて製造原価明細書は不要)、
b 会社法の計算書類と開示水準が大きく異ならない項目について会社法の開示水準に合わせる(例:偶発債務の注記)、
c 上記a、b以外の項目については、有用性等を斟酌した上で従来どおりの開示が必要か否かについて検討し、
・財務諸表における開示を免除する(例:主な資産及び負債の内容)、
・非財務情報として開示する(例:配当制限の注記)、
等の改正案となっている。
連結財務諸表を作成している会社のうち会計監査人設置会社は、特例として簡素化された様式を用いることが許容されることになる。その場合、「特例財務諸表提出会社である旨の注記」が必要になる。
恩恵を受けるのは連結財務諸表作成会社だけではない。財規ガイドラインでは、株主、役員若しくは従業員に対する短期債権や金銭の信託及びデリバティブ取引により生じる正味の債権など区分掲記の重要性基準値について、現行の資産総額(負債及び純資産の合計額)の100分の1から100分の5に改正する案となっており、これは連結財務諸表を作成していない会社にも適用される。
有形固定資産等明細表など、経団連ひな形と財規様式が異なる個所が整理されたことから、「似ているけど微妙に違う」書類の作成に追われる手間から解放されるといえよう。
平成26年3月期決算からの適用を予定している。それ以降の上場を予定している上場準備会社にとっても朗報といえよう。
(情報提供:日本IPO実務検定協会)
情報提供:上場.com