8年もの間、上司や同僚、監査役、内部監査室等誰にも気づかれることなく15億円超の着服をしていた事件が判明した。これは、NECの上場子会社NECネッツエスアイ株式会社(東証一部上場)の100%子会社のネッツエスアイ東洋株式会社(以下、TNSi)で起きた事件。NECネッツエスアイ社が2月14日に公表した「当社連結子会社従業員による不正行為に係る調査結果について」で明らかとなった。
この報告書は、TNSiの経理部マネージャーA(以下、A)が、8年間で15億円超の着服を行っていた事件の調査結果をとりまとめたもの。
報告書を読んで分かることは、TNSiは上場会社の子会社として、内部統制がパーフェクトではないにしろ、相応のものが「整備」されていたという点である。それにも関わらず、一部「未整備」であったり、「運用」が不十分であったため、8年もの間誰一人に気づかれることなく、15億円超を着服することが可能な状況であった。
Aの手口は、内部統制の仕組みの裏をかく巧妙なものであった。
まず、TNSiの会計システムに関して、Aの職制である経理マネージャーは、特殊な会計仕訳を登録できる地位にあったことが大前提となる。
その上で、TNSiでは、手許金庫に保管されている現金については、Aの部下である現金出納担当者が日々金種表を作成し、当該金種表と現金出納帳の双方をAの上司である経理部長が承認するという内部統制が整備・運用されていた。それでも、Aの資金着服が発覚しなかったのはなぜか。答えは「日々、現金出納担当者が作成する金種表を破棄し、現金出納帳上の残高に合致した現金金種表を作り直し、担当者の印鑑を無断で借用のうえ押印していた」のである。
また、TNSiで使用される小切手は線引小切手となっていた。通常は線引により、「銀行渡し」となることから、小切手を用いた着服が困難になるのが通常といえる。それも関わらず、着服が可能になったのは「小切手の裏書」が理由である。すなわち、「小切手の裏面に、記名、押印を行うこと(裏書)により銀行窓口で即座に現金化できる」ことに、Aが目をつけた。しかし、裏書をするためには、振出人の印だけでなく、裏にも社印を押す必要がある。TNSiでは、印章請求簿に印数の記載が求められていた。そこで、Aは経理部長が経理部長に印章請求簿の承認をもらうときには押印数を「1」と記載しておき、承認後に「2」に改ざんし、人事総務部に小切手の振出人欄だけでなく裏面にも社印を押印させたのち、押印数を「1」に修正していた。
また、小切手の二重振り出しも行われていた。その手口はこうだ。まず、消費税中間納付の納付書を添付した出金伝票をもって印章請求簿に「消費税中間納付」と記載して、社印を得る。その際、上記手口で裏書をしておく。裏書により小切手を現金化する(納付は行わない)。次に出金伝票に印紙税納付書と消費税中間納付書の2枚を添えて「印紙税納付等」と記載した印章請求簿について承認をもらう。発覚を回避するためのポイントは3つ。
1 二重振出時には10日ほどの期間をあける。
2 二重振出時には、印紙税の支払いと重ねることで摘要を「印紙税納付等」とする。
3 経理部マネージャーは特殊な会計仕訳を登録できることから、当座預金減少の相手勘定は売掛金とする(売掛金の増加)。
これらの工夫により、二重振出の発覚を回避していた。
また、普通預金口座からの引き出しに際しては、印章請求簿の件名欄に「使途及び金額」を書くべきところ「払戻請求書」とのみ記載(金額は記入せず)し、経理部長の承認後に、印章請求簿の金額を改ざんする等の手口を使っていた。
このような不正が8年続いたのち、Aの不正はひょんなことで発覚することになる。業務改善計画の中で主計マネージャーが受注オーダー別の売掛金明細の調査をしていた際に、営業部が把握していない不明な売掛金の存在が判明したのだ。
Aの着服額は15億6028万円に及んだ。着服の目的はギャンブル。Aは懲戒解雇となり、TNSiでは刑事告訴を予定している。またTNSiの社長、経理担当常務は平成26年3月末で辞任することになった。
(情報提供:日本IPO実務検定協会)
情報提供:上場.com