人員が十分でないベンチャー企業ではどうしても社員1人あたりの労働時間が長くなりがちだが、だからと言って、際限なく労働時間を延長することは許されない。「時間外労働に関する労使協定」(以下、「三六協定」と呼ぶ)は、「労働時間の延長の限度等に関する基準(H10.12.28労働省告示第154号)」により、「1か月あたり45時間、1年あたり360時間」(3か月を超える変形労働時間制の場合は「1か月あたり42時間、1年あたり320時間」)の限度内で定めなければならないとしている(建設業・自動車運転業等を除く)。
とは言うものの、業務の都合で、その限度時間を超えて働いてもらわなければならないことも起こりうるだろう。そのような事態が考えられる場合は、三六協定に「限度時間を超えて労働させなければならない特別の事情」、「限度時間を超えることができる回数、時間数」等の「特別条項」(「エスケープ条項」とも呼ばれる)を設けておけば、臨時的に限度時間を超えて労働させることがあっても労働基準法違反は問われないものとされている。
これは会社にとって使い勝手が良いので、一部の経営コンサルタントの間では、三六協定に特別条項を設けておくことを推奨する向きもあるが、安易に飛びつくのは危険だ。 まず、「特別の事情」は、単なる「業務多忙」では認められず、例えば「納期のひっ迫」や「大規模なクレームへの対応」といった突発的な事情を具体的に挙げておく必要がある。そして、限度時間を超えるのは、1年の半分以内に限られる(H15.10.22基発第1022003号)。
また、特別条項には、「限度時間を超える時間外労働に対する割増賃金率」を定めておかなければならず、しかも、この割増賃金率については、中小企業であっても2割5分を超えるよう努力義務が課せられている(H21.5.29厚生労働省告示第316号)。
もっとも、そもそも労使協定は、過半数労組または過半数代表者の同意を得られなければ締結できない。その点も踏まえ、会社側にばかり有利な条件を提示することが果たして得策なのかどうか、慎重に考えたいところだ。
(情報提供:社会保険労務士 神田 一樹)
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